「民主主義の呪い」は先進国にも当てはまるのか?
「過去20年間ずっと民主国は専制国より経済成長率が低い。民主主義は崩壊の瀬戸際だ。我々は『民主主義の呪い』かけられた」という言説を頻繁に目にするようになった。
「民主主義国家の方がコロナ死者が多くて去年の経済成長率も低い」と示してみたら、よく来るのが「コロナ年の超特例を拡大解釈おつw」。いや違います。過去20年間ずっと民主国は専制国より経済成長率が低くてどんづまってる。この図を見てみてね https://t.co/fZXVGbarR8 pic.twitter.com/DS6ouVfGUE
— 成田 悠輔 (@narita_yusuke) May 1, 2021
一方で、経済成長において、発展途上国における開発独裁の有効性と先進国における民主化の重要性は広く言われており、途上国と先進国を区別し分析することは重要である。 しかし、上記の議論では途上国と先進国を区別しておらず、経済面での「民主主義の呪い」が先進国にも当てはまるのかはわからない*1。
そこで、本記事では「民主国は専制国より経済成長率が低い」という主張が先進国にも当てはまるのかを検証する。
結論
先に結論を。
- 先進国における民主主義指数と経済成長率の関係を調べた結果、民主国は専制国より経済成長率が高い傾向にあった。
- そのため、経済成長においては「民主主義の呪い」が先進国にも当てはまるとは言えない。
分析
データと条件
一人当たりGDPのデータは世界銀行*2、民主主義指数のデータはWikipedia*3より取得した。 両方のデータが存在する国のみを分析対象とした(N=147)。
また、Developed country - Wikipediaを参考に、2000年時点で一人当たりGDPが$20,000を超えている国を先進国とした(N=23)。
結果
先進国における民主主義指数と経済成長率の関係を調べた。
結果を図1と図2に示す。途上国と先進国を区別せず分析すると(図1)一人当たりGDP成長率と民主主義指数には負の相関が見られた。 しかし、分析対象を先進国のみに限定すると(図2)、一人当たりGDP成長率と民主主義指数の相関は正になることがわかった。 また、相関係数は、途上国と先進国の区別をしない図1では0.20、先進国のみの図2では0.28であった。
これらのことから、先進国においては、民主国は専制国より経済成長率がむしろ高い傾向にあると言える。
*1:成田氏はTwitterにて「民主主義指数とGDP成長や死者数の関係は交絡や疑似相関ではない」と主張しているが、元論文を読む限り途上国と先進国を分けての比較は行っていない。