海外在住研究者のつぶやき

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高齢化と経済成長

高齢化と経済成長の関係は、経済学者や政策立案者の間で長い間議論の対象となってきた。一部の研究では、高齢化が必ずしも経済成長を阻害するものではないと主張しているが、新たな研究結果はその見方に疑問を投げかけている。

高齢化:経済成長への恵み?

Daron AcemogluらによるMITでの調査では、高齢化が急速に進行している国々が、直感に反して近年高い成長率を示しているという興味深い提案が示された[1]。研究者たちは、この現象を、高齢化が顕著に進行している国での自動化技術の導入加速に帰すると解釈している。彼らは、企業が人口の高齢化に伴ってロボットをより多く採用するのは、コスト削減だけでなく、主に労働力不足に対応するためであると指摘している[1, 2]。

厳しい現実

しかし、その後の一連の研究は、高齢化と成長の正の相関に否定的な見方を示している。Gauti B. Eggertssonらによるブラウン大学とハーバード大学の共同研究では、名目利子率が下限に達すると、この関係性は破綻すると主張している。この現象は大金融危機時に観察された[3]。

また、Hyun-Hoon LeeとKwanho Shinによる研究では、人口高齢化と経済成長の間に非線形の関係を明らかにしている。彼らの研究は、経済成長が否定的に影響を受けるのは、高齢者の比率が特定の閾値に達し超えたときだけであることを示唆している。この否定的な影響は、高齢人口の比率がその閾値を超えると発生する労働年齢人口の減少に関連している[4]。

さらに、ハーバード大学と南カリフォルニア大学のMaestasらによる研究では、60歳以上の人口が10%増加すると、一人当たりのGDPが5.5%減少するという結果が示されている。この減少は、雇用成長の鈍化が3分の1、労働生産性成長の鈍化が3分の2を占めるとされている[5]。

加えて、京都大学の研究者は、生産に枯渇性資源が必要な経済においては、人口減少が一人当たりの所得と消費の持続的な成長に重大な影響を及ぼす可能性があると主張している[6]。

結論

自動化や技術進歩は、ある状況下で高齢化人口が経済成長に与える影響を緩和する可能性があるものの、それらは万能ではない。高齢化と経済成長との微妙な関係性は、労働力の参加率、生産性、利子率、資源の利用可能性など、多くの要因により形成され、高齢化が経済成長にネガティブな影響を及ぼす可能性が多く報告されている。この事実は、政策立案者にとって、高齢化が長期的な経済持続可能性にもたらすより広範な影響を考慮する必要性を強調するものである。

参考文献

[1] Acemoglu, D. et al. (2017) "Secular Stagnation? The Effect of Aging on Economic Growth in The Age of Automation."
[2] Dizikes, P. (2021) "Study: As a population gets older, automation accelerates."
[3] Eggertsson, G.B. et al. (2018) "Aging, Output Per Capita and Secular Stagnation."
[4] Lee, H.-H., Shin, K. (2019) "Nonlinear effects of population aging on economic growth."
[5] Maestas, N. et al. (2016, Revised 2022) "The Effect of Population Aging on Economic Growth, The Labor Force and Productivity."
[6] Mino, K. et al. (2023) "Long-run consequences of population decline.