海外在住研究者のつぶやき

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「高齢化は経済成長に悪影響」は本当か?

メディアでは高齢化が経済成長に及ぼす悪影響が強調されている。悪影響の原因は、高齢化による労働力参加率や生産性の低下、あるいは高齢化による貯蓄率の上昇などとされている。

一方で、高齢化と経済成長は無関係だ、という報告もある。

高齢人口指数の変化率は先進国と途上国で意味合いが異なる。 例えば、途上国での高齢人口指数の増加は医療の充実を意味し、これは経済成長に悪影響を与えるとは考えづらい。 そのため、先進国への影響を知る上では、高齢人口指数の変化率と経済成長の関係を先進国に限定し分析すべきである。 しかし、上記の研究では先進国と途上国を区別していない。 そこで、本記事では先進国のデータを用い、高齢化が先進国の経済成長に悪影響を及ぼすかを検討する。

結論

先に結論を。

  • 先進国における高齢人口指数の変化率と経済成長率の関係を調べた結果、これらに相関は見られなかった。
  • そのため、「高齢化が経済成長に悪影響を及ぼす」という関係は、先進国においても本分析では確認できなかった。

分析

データと条件

一人当たりGDPおよび高齢人口指数のデータは世界銀行*1から取得した。

Developed country - Wikipediaを参考に、2000年時点で一人当たりGDPが$20,000を超えている国を先進国とした(N=30)。

結果

先進国における高齢人口指数の変化率と経済成長率の関係を調べた。 結果を図1に示す。図1からは、高齢化は経済成長に悪影響を及ぼすという関係は見られない。また、相関係数も0.13であり、ほとんど相関もない。

図1:先進国における高齢人口指数の変化率と経済成長率の関係

以下に具体例を示す。シンガポール、アイルランド、フィンランドなどの高齢人口指数の変化率が高い国においても、実際に高い経済成長が見られる。

Appendix

Acemoglu and Restrepo*2(2017)はさらに、人口高齢化が自動化技術の積極的な導入を促すことで、より高い成長を促進できると主張し、それを裏付ける実証的な証拠を示している。

Lee and Shin(2019)は、これらの矛盾する知見を、高齢化の成長に対する非線形効果によって説明している。彼らは、人口高齢化が経済成長に及ぼす負の効果は、老齢従属率が一定の高水準に達するまで実現しない、これは、人口高齢化率が比較的低いときには、(老齢従属率や老齢人口シェアで見た)人口高齢化率の上昇は、生産年齢人口のシェアの低下と一致しないためである、と主張している。高齢化率がある程度高くなると、高齢化の進展と労働力人口の減少が同時に起こり、経済成長率の鈍化につながる。Eggertson, Lancastre, and Summers (2019)も、1990-2008年の期間と比較して、より最近の期間(2008-15年)では、異なる理由で、高齢化が一人当たりの生産高成長率に与える影響がマイナスになったことを示している. (Lee+21)

*1:https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD

*2:The paper shown in the tweet above