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MMTは停滞ニッポンの救世主か

はじめに

少子高齢化などにより、日本の経済成長は見込めないと言われることが多い。 一方,少子高齢化は本質的な問題ではなく,経済政策が問題であり,MMT(Modern Monetary Theory)により経済成長できるという主張もある。 しかし、MMTの解説は執筆者の主張を強く反映しているものが多く、賛成と反対の両側からの解説は少ない。 そこで,本記事ではMMTについて賛成反対の両側から解説を調べる。

目次

MMTとは

現在ある経済資源を最大限に活用することで経済成長を目指しましょう、そして、それに必要な分だけ支出を増やしましょう、という考え方。

入手可能な経済資源が最大限活用されるのに必要な分だけ政府は支出を増やすべきだ。 (引用元:見直されるMMT、提唱者の新著に見る長所と短所 - Reuters

必要な分の支出は自国通貨建ての借金でまかないましょう、自国通貨建てなら借金しても財政破綻はしないから、という考え方。

政府が自国通貨建ての借金をいくら増やしても財政破綻はせず、インフレはコントロールできる。デフレの際に緊縮財政なんてもってのほか、もっと借金をして財政出動すべきである。――ざっくりいえば、そんな主張を含んだ理論のことだ。 (引用元: http://www.webchikuma.jp/articles/-/1860

注意したいのは、自国通貨を持っていたとしても「外貨建ての国債」があればデフォルトしうること。 2001年に財政破綻したアルゼンチンは、自国通貨「アルゼンチン・ペソ」があったが、外貨建て国債がデフォルトした。

アルゼンチンの場合は、外貨建ての国債がデフォルトしたのです。外貨建て国債の場合には、その外貨の保有額が足りなければデフォルトします。 (引用元: 中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた - ダイヤモンド・オンライン

なお、元京大准教授の中野氏は、上記の記事で、「日本はほぼすべての国債が自国通貨建てなので,デフォルトしない」との旨の主張をしている。

借金し放題、ではない

自国通貨建てならデフォルトしないから借金し放題…、というわけではない。程よいインフレを目指す事が重要である。程よいインフレは格差緩和と投資活性化に繋がる*1

国債や貨幣をいくらでも発行すべきとはMMTは主張していない。MMTは主にインフレによる制約があり、過度のインフレにならないように財政支出をコントロールしながら社会厚生を充実させることが重要 (引用元: MMTが「こんなに誤解される理由」を考えてみた - 東洋経済

しかし、この程よいインフレの維持が議論の焦点になっている。

MMTの争点:ハイパーインフレ

MMTの争点はハイパーインフレを回避できるか、である。

ハイパーインフレは気にしなくていい、派

ハイパーインフレにならないと主張する派閥は「課税によって回避可能」と主張している。

No, our approach won’t lead to hyperinflation, because we take inflation incredibly seriously. Taxes are, they concede, sometimes necessary to stave off inflation, ... (引用元: Modern Monetary Theory, explained - Vox

ハイパーインフレは気にしなくて良いという主張もある。 具体的には、日本は大規模な財政支出が必要であり、この財源確保のためにMMTは必要なので、「インフレが止まらなくなるという戯言に付き合っている余裕はない」との主張である。

政府は、新型コロナウイルス対策だけではなく、経済対策をも行わなければなりません。しかも、その両方に関して、かなり大規模な財政支出を行う必要があるでしょう。 (中略)もうこれ以上「インフレが止まらなくなる」などという戯言に付き合っている余裕は、日本にはないのです。 (引用元:新型コロナウイルスで、MMT批判も自粛ですか? - Yahoo!ニュース

ハイパーインフレになりうるよ,派

歴史を見る限りインフレをコントロールするのは難しい、と元東大教授の野口氏は主張する。

「インフルにならなければよい」と言うが、過去の歴史を見る限り、それが難しかったのだ (引用元: MMTとは何か?どこが問題か?

加えて、インフレは止められる、というのは根拠がなく非現実的な楽観論との主張や、

MMT論者は、インフレはすぐ止められる、と言うが、それは根拠のない、非現実的な楽観論だ。 (引用元:泡のごとく膨れるMMTへの淡い期待 - キヤノングローバル戦略研究所

さらには、MMT論者の主張する「増税によるインフレの食い止め」は政治的に実現可能かは疑問との指摘もありインフレのコントロールは難しいと主張する専門家が多いことがわかる。

MMTは、設備稼働率が上限に達した場合にはインフレ率が上昇し、拡張的な財政支出と金融政策に制約がかかる可能性があることを理解してはいるものの、どのような時に制約が作動するかについては明らかにしていません。MMTは、必要があれば、増税を通じて、市中に流通するマネーを回収することが可能であると主張していますが、そのような増税が政治的に実現可能かどうかは疑問だとの批判も散見されます。(引用元: 現代貨幣理論(MMT)とは~既に米国を支配したか - 幻冬舎

確かに、過度なインフレにより国民の生活が圧迫されている中で、増税への支持を得るのは難しそうだ。

まとめ

  • 経済成長へのMMTの有効性は、特にハイパーインフレ回避の可否について、専門家の間でも意見が割れていることがわかった。
  • MMTはあくまで(人的を含む)資源を最大限に活用する方法であり、資源以上のアウトプットは得られない。打ち出の小槌でもないし、money printing machineでもない。

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