海外在住研究者のつぶやき

専門外のことについて勉強した内容をまとめます.

【年収約500万】子連れPhD留学に「欧州」という選択肢【GRE・TOEFLなし】

もありますよ,という提案をしたい.

著者は高いGPAも無ければ,コネも時間も奨学金もなかったが,幸運にも欧州の大学に博士候補生(PhD Candidate)として採用された.

スウェーデンやオランダなどの欧州PhDは「GRE・TOEFLなし」「高GPA不要」「通年募集」「出願時に推薦状が不要」など,時間のない子持ち社会人にも受験しやすく,さらに,「大学に雇用され給料を得つつ」「英語環境で研究ができる」という待遇・環境面での利点もある.しかし,日本語で得られる欧州PhDの情報は少ない.そこで,「コネも時間も奨学金もない子持ち社会人だけど,海外PhDへ留学したい」という数年前の自分のような方に向けて,本記事では筆者が調べた欧州PhDの情報をまとめる.また,次の記事で筆者の合格体験を記す.

なお,「欧州」としているが,本記事では筆者が主に受験したスウェーデン,オランダを中心に扱う.他の欧州先進国もここで扱う二国と同様の傾向があるものの,給与などには違いがあるので注意されたい.

目次

なぜ欧州?

十分な貯蓄があるならばともかく,そうでない場合,フルタイム学生として国内博士課程へ進学することは子持ちには厳しいのが実情かと思われる.では,米国PhDへの進学か?となると,今度は子育てや仕事の合間を縫ってGRE・TOEFL対策をする必要が生じ,人によってはなかなか現実的ではない.そんな人にとって,欧州PhDは良い選択肢となりうる.筆者が考える欧州PhDの利点は以下の通りである.

  • 利点①:大学に雇用され給料を得つつ,英語環境で研究できる
  • 利点②:社会人に受験しやすい募集形式である
    • GRE, TOEFLが必須でないため,受験準備コストが低い
    • GPAが重視されないため「学部時代サボった」人にもチャンスあり
    • 通年募集かつ出願時に推薦状が不要なため,細く長く受験が可能(=受験のために仕事を辞める必要なし)

表1に,筆者が考える社会人にとっての欧州PhDのメリット/デメリットを星取表としてまとめる. なお,この表はあくまで(筆者の考える)各国PhDの相対的な傾向を示したものであり,例外が多く存在することに注意されたい.

表1. 欧州,⽶国,⽇本における(フルタイム)PhDの⽐較. ⼦持ち社会⼈にとって「メリット」「デメリット」「どちらとも⾔えない」と筆者が考えるものに, それぞれ×を⽰した.

欧州(スウェーデン,オランダ) 米国 日本
GRE なし ×あり なし
TOEFL, IELTS なし*1 ×あり 大学・研究科による
GPA 重要ではない ×重要 重要ではない
(出願時の)推薦状 不要(Refereeへの連絡先の提示のみ) ×必要 不要
学科試験 なし なし ×あり*2
授業料 なし ⾼額だが奨学⾦がカバー ×50万〜
給与 約500万*3,オランダでは所得税が⼀部免除 様々 ×基本なし*4
⼤学院の公⽤語 英語 英語 ⽇本語
倍率 ×100倍程度*5 ×10倍〜*6 2倍〜(研究室により⼤きく異なる)
募集時期 通年 固定 固定(春,秋)
合否基準 研究実績,実務経験を重視 ×各種試験やGPAと研究実績,実務経験を基に総合的に判断 ×学科試験,研究実績,実務経験などを基に判断

米国の大学は世界随一の環境で研究できるという大きな利点があるものの, 表からわかるとおり,受験準備の手間が多く子持ちの社会人にとって受験しやすいとは言い難い.

日本の大学は受験準備の手間が米国と比べ少なく,世界レベルの研究者から母国語で指導を受けられるという利点もあるが,学費がかかり,さらに給与も貰えないことを考えると,子持ちにとって進学しやすいとは言い難い.

これらに対し,欧州の大学は社会人に受験しやすい募集形式であるために,受験準備の手間も少なく,さらに,雇用され給料を得つつ博士号を目指せるため,子持ちにとって受験・進学しやすい.

以下,欧州の大学の利点を詳説する.

欧州PhDの利点①:大学に雇用され給料を得つつ,英語環境で研究できる

スウェーデンやオランダのPhDはいわゆる「学生」ではなく,大学から雇用される研究者のため,子連れ家族が生活するのに必要な給与を得つつ研究に専念することができる.

また,スウェーデン人やオランダ人の英語力は非常に高いことが知られている.例えば,EF Education Firstの2019年の調査によると,ノンネイティブの国の中でスウェーデン人やオランダ人の英語力はそれぞれ1位,2位である.そのため,(英語圏には劣るものの)英語を学ぶ環境としても悪くは無い.

スウェーデン・オランダの生活費

スウェーデン・オランダは生活費が高い国と思われがちだが,外食費が高いのが主であり,日本の都市部と比べると生活必需品はむしろ安いこともある.参考として,大阪とスウェーデン第二の都市ヨーテボリのcost of living rank*7を示す.

生活費の比較

  • 大阪:“Cost of living rank 15th out of 473 cities in the world.”
  • ヨーテボリ:“Cost of living rank 131st out of 473 cities in the world.”

全体としての生活費はヨーテボリのほうが低いことがわかる.そのため,年収500万は(地域を選べば)子連れ家族が必要最低限の生活するのには足りると筆者は考えている.

欧州PhDの利点②:社会人に受験しやすい募集形式

前述の通り,スウェーデンやオランダはPhDは大学から雇用される研究者である.そのため合否判定も企業の採用試験のような形式で行う.具体的には表に記載の通り,GREやTOEFL,大学時代のGPAより,研究実績や実務経験を重視し合否を決める.

また,企業の採用活動と同様に通年募集であり,加えて出願時に推薦状の提出も不要なため,細く長く受験できる.

そのため,子持ちの社会人にとって受験しやすいと言えるだろう.

筆者の合格体験記

別記事として執筆予定.

ご質問

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*1:必須ではないが高得点の取得はアピールになる.また,語学試験に関する要件を記載しているケースも稀にある.

*2:社会人入試など,一部は面接のみ

*3:為替相場により変動

*4:例外は多い.例えば,理化学研究所によるRA雇用など.ただし,家族を養えるほどの給与が貰えるポジションは稀.

*5:平均倍率は公開されていないが,応募後に大学から届いたメールに “there is a total of 126 applicants to the position” や “there were more than 90 candidates for this PhD position” との記載があったことから,「100倍程度」と記載した.ただし,分野により大きく異なると思われる.なお,Utrecht大学のMaintz教授の資料によると, “PhD programmes are highly selective and only the best MSc students eventually become PhDs.” とのこと.

*6:ただし,TOEFLやGPAなどでの暗黙的な足切りを受けた上での倍率のため,潜在的な倍率は更に高い.

*7:2020年5月3日現在.Cost of living rankはnumbeoを参照した.